講師はNPO法人日本冒険遊び場づくり協会副代表の天野秀昭さん。
世田谷区の羽根木プレーパークで、日本で初めて有償のプレーリーダーとして仕事をし、その後自分の子どもたちのためにと地元でプレーパークを作った、との自己紹介。
プレーパークはデンマークが発祥の地で、かの国では氷点下5度を下回らなければ外で子育てをするという。寒いときにも、暑いときにも外で遊ぶことで、環境に適応する体の基礎を作っている。
≪子どもは自分で限界を超えようとする存在≫
ひなちゃんは6歳。あと半月で小学校入学を迎えようとする3月のある日、天野氏の膝に座ってずうっとひとつの遊びを見ている。
プレーリーダーの小屋の、高さ3メートルの屋根から子どもたちがつぎつぎと飛び降りている。仕事が気にかかってもいた天野氏はつい、「ひなちゃんもとんでみる?」と聞いてしまう。ひなちゃんは「とぶのはがっこうにいってから」と答える。「ふうん、ちゃんとじぶんできめているんだ」と感心していると、数分後「やっぱり、とんでみる!」とひなちゃんは立ち上がってすたすたと歩き、子どもたちの列に並んだ。どちらかといえば活発に遊ぶほうでもないひなちゃんの行動に内心焦る天野氏。「がっこうにはいってからでいいんじゃない」と声をかけるが、ひなちゃんは耳を貸さない。
ひなちゃんの順番が回ってくる。その場に固まってしまうひなちゃん。子どもたちは容赦なく「とぶの?とばないの?」「はやくとびなよ!」「とばないならどいて」と言葉を浴びせる。ひなちゃんはすごすごとその場を離れる。天野氏は内心ほっとする。
どのくらい時間がたったのか、天野氏がふと見ると、ひなちゃんは再び列の最前線にいる。ひなちゃんは自分の限界を超えようとしている。子どもたちも、もはや囃し立てたりはしない。子どもたちはタイミングは本人がつかむことだと知っている。見守りにはいる子どもたち。ひなちゃんがほんとに飛べるのか、飛ぶのかじっと待っている。天野さんも思わず駆け寄るが、その瞬間ひなちゃんは空を舞い、着地した!! しばらくじっとしていたひなちゃんは駆け寄ったお母さんに膝に抱きついて声をあげて泣いた。
遊びの中で自分で育とうとする力を育むことを天野さんは「遊育」と呼んでいる。「やってみたい」という意欲こそが一人ひとりが自分であることの証。遊びとは、生きる根っこを育むこと。そんな“危ない”遊びができる場を狛江に作りたい。参加者全員が心から共感を覚えたお話だった。