帰り道、歩道から園庭で遊ぶ子どもたちの姿が見えます。畑仕事に精出す子、保育士さんの元気なかけ声にきゃっきゃと言って喜んでいる小さな子どもたち、トムソーヤの家のようなログハウスがお気に入りの子、どの子もとても楽しそうなのです。園の雰囲気も開けっぴろげです。
5時過ぎでしたが、行きがけに気になっていたこの保育園の扉を叩きました。そこが「せいがの森保育園」です。
玄関を入ると、まず「月〜金午後1時から4時まで園庭開放どなたでもどうぞ」と書いた張り紙が目に飛び込んできます。
受付で名乗ると園長の藤森さんが応対してくださいました。開口一番園庭開放についてお聞きしました。
「園を閉ざせば閉ざすほど安心・安全から遠くなると思います。子どもたちへの虐待、暴力はむしろ内部の人間からのほうが多いんです。自分は教師をしていたので学校での実態を体験しています。家庭で一人で子育てする人たちの閉塞感を放っておいてはいけない。子育て、保育や教育の空間を密室にしてはいけないと思います。
風通しよく、多くのまなざしが子どもたちに注がれることが大事だと考えて、園内に密室を作らないこと、また地域に園を開く努力をしています。全く見知らない人を無防備に受け入れるわけではなく、受付のところを必ず通らないと園庭には行けないようになっています。顔見知りになった地域の人が増えるほど子どもたちの地域での安全網が広がります。保育ボランティアでこの園の試みを応援してくださる地域の方も増えます。かかわり合い、関係性を地域の中に創りたいんです。」と藤森園長さんはおっしゃいました。言いえて妙だなーといたく感じいりました。ついでに、後でわかったことですが、この園は関係性をデザインすることに優れていることで「グッドデザイン賞」を受賞されていました。
この保育園では園庭だけでなく、園の施設を地域に開放しています。
子どもたちが外遊びする時間帯は保育室を子育てセンターわくわくとして会員登録している親子に提供しています。国の設置基準に合わせたものではなく、独自に園の保育士さんが交代で在宅で子育てしている人たちにも奉仕しているのです。研修を受けた地域のボランティアスタッフもお手伝いしているそうです。
また、会議室を地域の会合や学習会に無料で貸し出したり、玄関に近いところにある子どもの本をおいたコーナーで地域の方が自由に絵本を楽しめるそうです。このときはギャラリーで絵本原画展も開催されていました。
このところ本当に痛ましい事件が街中でも保育・教育現場でも相次ぎ起こっています。不安をどう安心・安全に変えていくのか、それは単なる監視社会、閉鎖社会にするだけでは決して解決されないものだろうと思います。
藤森さんが進めようとしている地域の人たちとの関係性を上手に活かし、信頼関係の上に築かれた地域ぐるみの子育て支援が、さらには地域の安心・安全をつくっていくだろうと思えました。